顕微鏡 第47巻▶第2号 2012
■特集:体内時計のかたち

時間差を捉える哺乳類体内時計中枢

重吉康史,長野護,升本宏平,鯉沼聡

近畿大学医学部解剖学

要旨:視交叉上核(SCN)は,視交叉の直上に存在する一組の神経核であり,哺乳類概日リズムの中枢である.SCNは末梢時計を制御することだけでなく,外界の光環境の変化を認識する機構を備えている.概日リズムはリミットサイクルとよばれる物理現象と考えられており,視交叉上核における概日リズム発振細胞の振る舞いに理論的裏付けを与えている.視交叉上核の時計の位相を大きく変動させる入力は光である.光反応部と非光反応部をそなえる視交叉上核の解剖学的構築が時差ぼけの原因となっている.非光反応部では概日リズムが最大で1日2時間程度しかシフトしないため環境の明暗周期に同期するのに日数を要する.これが時差ぼけ(時差症候群)である.また視交叉上核内部には位相波とよばれる現象が現れ,同期を維持しながら日長を振動子間の位相差として視交叉上核内に蓄えるシステムであることが明らかになって来た.

キーワード:概日リズム,体内時計,視交叉上核,時差ぼけ,位相波

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