顕微鏡 第51巻▶第1号 2016
■特集:細胞内および細胞間輸送の最新知見

菌根共生における元素輸送:細胞学的研究と表面分析

久我ゆかり

広島大学大学院総合科学研究科

要旨:菌根は糸状菌(菌根菌)が植物の根の表面,細胞間あるいは細胞内に定着して形成する共生器官である.菌根菌は土壌から生体に必要な元素を吸収して宿主植物に渡し,一方植物から炭素化合物を受け取る.本共生における物質輸送は,大きく,土壌中菌糸(外生菌糸)と根内菌糸(内生菌糸)の間の長距離輸送,菌根内における菌糸と植物の間の交換,植物における葉と根の間の長距離輸送の3つの区分に分けられる.真核生物間の共生であり,定着のタイミング・部位・量・プロセスなど変動要因があるため,菌根における物質輸送を理解するためには共生体・組織・細胞・細胞小器官の各階層での解剖学的アプローチが必要である.菌根共生における物質輸送を樹脂包埋法と表面分析法を組み合わせて細胞レベルでのイメージング解析した例として,カドミウムのマイクロ蛍光X線分析(μXRF)および生体元素の安定同位体を用いた二次イオン質量分析(SIMS)について紹介する.

キーワード:菌根共生,元素輸送,μXRF,SIMS,細胞内局在