顕微鏡 第51巻▶第2号 2016
■講座

海底堆積物の微細構造と微生物細胞の観察

浦本豪一郎,諸野祐樹a,b,植松勝之,稲垣史生a,b

海洋研究開発機構高知コア研究所
海洋研究開発機構海底資源研究開発センター
マリンワークジャパン

要旨:広大な海洋,その下に広がる暗黒の深海底のさらに下の海底下地層環境には,地球最大級の微生物生命圏が存在することが分かってきた.海底に降り積もる泥や岩石を主体とした地層,人間の生息域から離れた「極限環境」である海底下環境の実態に迫るには,構成マトリクスである地層を含めた詳細な微細構造観察が必要不可欠となる.しかし,地層試料の微細構造解析技術は硬い岩石を対象としたものが多く,柔らかい地層の微細構造観察は不可能な状態にあった.また,海底下微生物生命は,大量に存在する地層マトリクスを構成する非生物粒子に阻まれて,その観察は容易ではなかった.これらの点を解決するべく,筆者らは海底下から採取した試料の微細構造,およびその中に存在する微生物を観察する技術の開発を進めてきた.本講座では環境試料へのアプリケーションとして筆者らの取り組みを紹介し,未解決の課題,および将来への展望について議論したい.

キーワード:海底堆積物,微細構造,微生物