顕微鏡 第43巻▶第2号 2008
■線維芽細胞をめぐる最新の知見

線維芽細胞の収縮と筋線維芽細胞

伊奈啓輔,北村裕和,藤倉義久

大分大学医学部生体分子構造機能制御講座構造解析分野

要旨:糖尿病性腎症の尿細管間質に出現する筋線維芽細胞は,活性型線維芽細胞とも呼ばれ線維等の細胞外基質の蓄積すなわち線維化をもたらす.また,その形態的特徴から細胞の収縮ひいては線維化組織の収縮を来たすと考えられ,線維芽細胞と平滑筋細胞の中間に位置付けられてきた.筋線維芽細胞の由来は,TGF-β1の作用を受け線維芽細胞等の特定の細胞がα平滑筋アクチン(αSMA)等を発現する分化転換によることが示されてきた.筋線維芽細胞の最大の形態的特徴であるαSMAの発現の意義について,腎線維芽細胞を用いたin vitro培養系で検討した.結果,収縮にはαSMAの発現は必ずしも必要ではなくαSMAが発現していない線維芽細胞もストレスファイバーを形成し収縮を起こし,αSMAが発現している場合収縮は増強することが示唆された.また,αSMA発現の細胞内シグナル経路と収縮の細胞内シグナル経路は異なり別の事象と考えられた.

キーワード:線維芽細胞,筋線維芽細胞,α平滑筋アクチン,線維化,糖尿病性腎症

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