顕微鏡 第44巻▶第2号 2009
■特集:生体高分子の高分解能構造解析

ダイニン・微小管複合体の高分解能構造解析

広瀬恵子a,上野裕則a,b

a産業技術総合研究所セルエンジニアリング研究部門
b東北大学国際高等研究教育機構

要旨:ダイニンは,微小管上を運動する分子モータータンパク質である.その運動を説明する最も一般的なモデルは,ダイニン分子がストークと呼ばれるドメインの先端で微小管に結合し,ストークを回転させることによって微小管を動かすというものだった.しかし,ストークは単一のコイルドコイル構造から成る細い構造であり,微小管に結合した状態での電子顕微鏡観察は,ネガティブ染色法でもクライオ電子顕微鏡法でも難しかった.我々は,酢酸ウラニル染色とクライオ電子顕微鏡を組み合わせた新方法「クライオポジティブ染色法」を用いることにより,微小管に結合したストークの観察に成功した.2つのヌクレオチド状態で構造を比較した結果,上記モデルに反して,ストークは微小管に対してほとんど角度を変化させないことがわかった.

キーワード:低温電子顕微鏡法,画像解析,分子モーター,微小管

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