顕微鏡 第46巻▶第4号 2011
■特集:体性感覚研究の進展

TRPチャネルと感覚―痛みと温度感覚に焦点をあてて―

富永真琴

自然科学研究機構岡崎統合バイオサイエンスセンター細胞生理研究部門

要旨:細胞は,環境情報を他のシグナルに変換し,細胞質・核や周囲の細胞に伝達することによって環境変化にダイナミックに対応している.地球上のほぼすべての生物は温度を感じて生存しており,環境温度受容の中心的分子が温度感受性TRPチャネルである.このチャネル群は昆虫から哺乳類まで広く保存されており,哺乳類では低温から高温までの一定の温度域をカバーする9つのチャネルが知られている.感覚神経では温度感受性TRPチャネルの活性化による陽イオン流入が脱分極から電位作動性Na+チャネルの活性化を引きおこし活動電位が起こると考えられている.42度以上と15度以下の温度は痛みを引きおこすことから,その温度域で活性化するチャネルは痛み受容体としても捉えることができる.どのようにして温度がチャネルの開口をもたらすのかは明らかになっていない.結晶構造は明らかになっておらず,低温電子顕微鏡による単粒子解析の結果が報告されている.

キーワード:痛覚,温度感覚,TRPチャネル

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