顕微鏡 第47巻▶第4号 2012
■発生過程における細胞移動のライブイメージング解析

ショウジョウバエの巨大ミトコンドリアが促進する精子形態形成

野口立彦

防衛医科大学校 生物学教室

要旨:複数の雄由来の精子が,限られた数の卵を競い合う精子競争においては,相手を打ち負かす様々な精子形態が進化する.ショウジョウバエのある種では,より長い精子を雌が選択してきた結果,体長2 mm程度の雄の精子が6 cmにも達する.D. melanogaster種の精子前駆細胞を初代培養し,ライブ観察する系を利用して,長大な精子の伸長メカニズムについて解析した.この精子伸長は特殊であり,精子運動に必須の鞭毛軸糸ではなく,巨大ミトコンドリアと細胞質微小管が内骨格として細胞伸長を促進することが判明した.巨大ミトコンドリア自身が微小管重合中心として働き,ミトコンドリア周囲の細胞質微小管がモータータンパク質と滑り運動を起し,伸長力を発生する.つまりショウジョウバエの長大な精子形成において,ミトコンドリアは本来の細胞呼吸の場として働くだけではなく,細胞の外形態を決める新たな役割を進化・獲得したと考えられる.

キーワード:精子形成,ミトコンドリア,微小管,生物多様性

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