神経前駆細胞のエレベーター運動:ライブイメージング・モデリングを活用した組織内細胞運動の理解
川崎医科大学・解剖学教室
要旨:近年の光学顕微鏡及び組織培養技術の発展により,生組織内での細胞運動を経時的に観察する研究が盛んになってきた.本稿では,胎生期脳の神経前駆細胞が示す細胞周期依存的な核運動(エレベーター運動)を解析した研究を紹介する.マウス胎児脳組織を用いた定量的タイムラプス測定,シミュレーション解析などにより,G2期にアピカル表層に向かう細胞核移行は微小管細胞骨格の細胞周期依存的な制御が必要な「能動的」運動であることに対し,G1期の逆方向の核移行は組織中の細胞密度勾配に従った「受動的」な運動であることが示された.これにより,エレベーター運動の最大の特徴である「胎生期脳の上皮組織の恒常性」と「個々の細胞運動」との調和が保たれる仕組みを説明する新規メカニズムが,見出された.本稿ではライブイメージング・モデリングの一例として,組織内での細胞運動解析に用いられる手法を紹介し,またそこから得られる新たな細胞運動のコンセプトについても論じていく.
キーワード:細胞核運動,定量的タイムラプス解析,シミュレーション,脳形成,神経発生