顕微鏡 第49巻▶第1号 2014
■講座

分子擬態を利用した寄生蜂の移動性卵による宿主組織への侵入

高橋(中口)梓a,b,平岡毅,遠藤泰久,岩淵喜久男

千葉大学真菌医学研究センター
東京農工大学農学部応用昆虫学研究室
京都工芸繊維大学工芸科学研究科応用生物学部門

要旨:生活環のほとんどを他の昆虫体内で過ごす内部寄生蜂は,それぞれの宿主に適応するため驚くべき進化を遂げている.本稿で扱うキンウワバトビコバチCopidosoma floridanumは宿主卵,そして孵化した宿主幼虫の中で生き延びるために,進化的にバリエーションが少ないはずの初期発生を大幅に変更し,卵割後,アメーバ様に移動できるステージを獲得した.この移動性の寄生蜂胚は宿主細胞に自己と誤認させ,宿主胚の胚発生に伴う細胞移動に便乗し,その細胞間を通って宿主胚体内に侵入する.孵化した宿主幼虫体内で寄生蜂胚は,宿主細胞の臓器を保護する宿主由来の嚢組織(cyst cell)で周囲を覆わせて宿主免疫を回避するだけでなく,酸素を得るため宿主に気管を形成させていた.本講座では,共焦点レーザー顕微鏡および透過型電子顕微鏡を用いて一連の現象を明らかにした経緯と,分子擬態に関与する分子機構の一部について紹介する.

キーワード:寄生蜂,自己認識,細胞間移動,カドヘリン,レクチン

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