顕微鏡 第51巻▶第2号 2016
■特集:真空環境を離れ,原子に肉薄するSPM

高粘度イオン液体中における原子分解能AFMイメージング

一井崇

京都大学大学院工学研究科材料工学専攻

要旨:液中環境下で用いられる原子間力顕微鏡では,そのフォースセンサとしてSi製カンチレバーが広く用いられている.一方,イオン液体はその多くが水や有機溶媒に比べて極めて粘度が高く(典型的に水の100倍程度),Si製カンチレバーを用いた場合,その振動のQ値が著しく抑制され,その結果,力検出感度が低下するという問題がある.この問題を解決する方法として,筆者らは先鋭化した探針を取り付けた音叉型水晶振動子センサ,いわゆるqPlusセンサをフォースセンサとする方式を採用し,これにより高粘度イオン液体中でも比較的高いQ値を維持することが可能であること,ならびに原子・分子分解能観察が可能であることを示した.本稿では,これまでの装置開発の経緯とイオン液体中での高分解能イメージング結果とをあわせて紹介する.

キーワード:原子間力顕微鏡,イオン液体,音叉型水晶振動子,原子分解能