顕微鏡 第44巻▶第1号 2009
■解説

免疫染色とin situ hybridization法で決める最近の乳癌治療

黒住昌史

a埼玉県立がんセンター病理診断科

要旨:近年,癌の薬物療法は癌細胞の生物学的な性状によって適応を決定するいわゆる「tailor-made therapy」の方向に進んでいる.特にホルモン依存性癌である乳癌では,ER(estrogen receptor)もしくはPgR(progesterone receptor)陽性の患者のみが内分泌療法の対象になっている.また,ヒト上皮細胞増殖因子受容体であるHER2に対するモノクローナル抗体製剤であるtrastuzumabが,HER2のタンパク過剰発現ないしは遺伝子増幅のある乳癌に有効であることが明らかになり,広く臨床で使用されるようになった.現在,これらの治療法の適応を決めるために,ER, PgRの発現状況とHER2タンパクの過剰発現の有無を免疫組織化学的方法(IHC法)で,HER2遺伝子増幅をISH法(FISH, SISH, CISH)で検索することがスタンダードになった.このような乳癌領域における新しい展開は,長年の基礎的,臨床的研究の結実であり,地道な研究と実地医療が結びついた理想的な事例の1つと思われる.

キーワード:HER-2, ER, PgR, FISH, DC-SISH

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