顕微鏡 第45巻▶第3号 2010
■解説

タンパク質1分子とその中身を観察する顕微鏡技術

西坂崇之,政池知子

学習院大学理学部物理

要旨:1分子生物物理学は,たった1個のタンパク質を実験対象としてその性質を理解しようという研究分野である.可視光で検出できるプローブを用いてタンパク質を標識し,タンパク質自身の動きや反応のダイナミクスを,特徴的な照明方法や高感度カメラを駆使して顕微鏡下で観察する.活性を保ったままの状態で,1分子の情報を画像化するというのが最大の特徴である.高濃度のタンパク質を用いた分光学的な手法では検出できない,平均化によって見えなくなるような中間状態を検出できるというポテンシャルを有しており,この方法論によって特に分子モーターの研究は飛躍的に進んできた.著者らのグループでは,主に蛍光顕微鏡の開発を進め,これまで困難とされてきた1分子の化学・力学反応観察に新しい道筋を開いた.また最近になって,回転分子モーターであるF1-ATPaseの局所的な構造変化の検出に成功した.X線構造解析では見えていなかった新しい構造を発見したのである.

キーワード:モーター分子,1分子生物物理学,F1-ATPase,全反射型蛍光顕微鏡

本文PDF