顕微鏡 第50巻▶第2号 2015
■特集:単一菌体の時間的・空間的連続観察から得られた新知見と将来展望

1分子蛍光顕微鏡による1細胞内遺伝子発現の可視化

谷口雄一

理化学研究所生命システム研究センター

要旨:1つ1つの細胞で行われる遺伝子発現は確率的であるため,各細胞に存在する遺伝子発現産物の量は,例えゲノムが等しくても不均一となり,さらに時々刻々と変動する.しかしながら,低コピー数のタンパク質の発現や,発現量の微小なばらつき・ゆらぎなどを測定することは,一般的な遺伝子発現の測定手法では感度面において難しい.このため筆者らは,1分子イメージング技術を応用し,1細胞の遺伝子発現の動態を定量的に解析する方法論の開発を進めている.モデル生物である大腸菌(Escherichia coli)を用いて1,018遺伝子に対して網羅的に解析を行ったところ,各細胞のタンパク質発現量の分布はほぼどの遺伝子においてもガンマ分布で記述でき,さらにその形状は転写・翻訳速度による影響を受けて決定されることが分かった.さらに,1細胞内におけるmRNAとタンパク質の発現量を同時に測定した結果,両者の量の間には相関性が無いことが分かった.

キーワード:1分子・1細胞イメージング,遺伝子発現ノイズ,ゲノムワイド解析,大規模データ解析,微細加工技術

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