顕微鏡 第51巻▶第1号 2016
■特集:細胞内および細胞間輸送の最新知見

微小管結合蛋白によるNMDA受容体輸送調節と神経可塑性

武井陽介,廣川信隆

筑波大学医学医療系 解剖学・神経科学研究室,人間総合科学研究科感性認知脳科学
東京大学大学院医学系研究科 分子構造・動態・病態学講座

要旨:神経細胞相互の情報のやりとりはシナプスで行われる.神経伝達が効率よく行われるためには,受容体がシナプスに集積されることが必要であるが,この輸送メカニズムには不明な点が多い.モーター分子群キネシンスーパーファミリー蛋白は,ATPの加水分解により生ずるエネルギーを使って微小管上を移動し,受容体などの膜蛋白や細胞骨格蛋白複合体等多彩なカーゴの細胞内輸送を行う.そのひとつKIF17はNMDA型グルタミン酸受容体サブユニット2B(NR2B)を輸送し,この輸送が記憶・学習・神経可塑性に必須の基盤となっている.輸送の制御は神経活動依存的に行われ,リン酸化によるカーゴの荷おろし,CREBを介したKIF17の生合成増加などが明らかになった.一方,非モーター微小管関連蛋白MAP1Aによる受容体輸送サポートが存在することも解明され,全体としてNMDA受容体輸送が多段階制御下に輸送されている様子がわかりつつある.

キーワード:NMDA受容体,細胞内輸送,キネシンスーパーファミリー蛋白,微小管関連蛋白,神経可塑性

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