顕微鏡 第52巻▶第2号 2017
■解説

ナノ電子プローブによる磁気カイラル二色性(EMCD)測定

武藤俊介a*,Rusz Ján

名古屋大学未来材料・システム研究所高度計測技術実践センター
ウプサラ大学物理学・天文学部

要旨:磁性元素に局在する磁気角運動量(軌道/スピン角運動量)をナノ領域で測定するために,試料を通過する高速電子のエネルギー損失分光(EELS)によって磁気カイラル二色性(MCD)信号を検出する手法をエネルギー損失磁気カイラル二色性(EMCD)測定と呼ぶ.これは左右旋回円偏光X線を用いるX線吸収分光(XAFS)スペクトルの差を取るX線磁気円二色性(XMCD)のEELS版と位置づけられる.2003年にウィーン工科大学のSchattschneiderらによって原理提唱されてから10余年を経た今,理論・実験両面において多様な試行錯誤の後に,今や原子面分解能での磁気信号測定までが可能となり,現実の材料での定量測定応用まであと一歩のところまで進展しつつある.本稿では,本主題の原理的基礎から始め,その後主として我々のグループが携わった成果を中心に,この分野の現在までの発展の経緯と将来展望を解説する.

キーワード:強磁性体,磁気角運動量,磁気カイラル二色性,電子エネルギー損失分光,情報統計処理

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