顕微鏡 第53巻▶第2号 2018
■特集:低次元物質の微細構造を探る

原子分解能低加速電圧TEMの開発と低次元物質の観察

森下茂幸,向井雅貴,沢田英敬,林永昌,千賀亮典,末永和知

日本電子株式会社
産業技術総合研究所

要旨:透過型電子顕微鏡を用いて低次元物質を観察する際には,試料ダメージを抑えるため低い加速電圧が用いられる.しかし,加速電圧が低い場合,幾何収差に加えて色収差の影響が顕著に現れるため原子分解能での観察が難しかった.そこで我々は,高次収差の補正が可能なデルタ型収差補正装置に加え,モノクロメーターを搭載することで,幾何収差および色収差を共に制御し,低加速電圧TEMの分解能向上に取り組んだ.これにより,15–60 kVにおいてグラフェンの炭素原子間隔0.142 nmを分離して観察することに成功した.15 kVでの単層WS2像では,フーリエ変換において波長の10倍以下に対応するスポットも得られた.また,炭素原子鎖を動的に観察することで,広い視野範囲での原子分解能動的観察が可能なことも示した.今後はこの原子分解能低加速電圧TEMを用いることで,種々の低次元物質の構造解析が進むものと期待される.

キーワード:低加速電圧透過型電子顕微鏡,原子分解能,収差補正,モノクロメーター,グラフェン