顕微鏡 第53巻▶第2号 2018
■特集:低次元物質の微細構造を探る

エピタキシャルグラフェンと電子顕微鏡

楠美智子,増田佳穂b,c,山本悠太,乗松航

名古屋大学未来材料・システム研究所
名古屋大学大学院工学研究科
(現)東海カーボン株式会社富士研究所

要旨:エピタキシャルグラフェンは,炭化珪素(SiC)の熱分解によって半絶縁性の基板上に直接に大面積で高品質に形成可能であることから,通信用高周波トランジスターへの応用が期待される.しかしながら,この手法ゆえに,SiC基板表面のフォノンによりグラフェン内のキャリアが散乱されるという問題が重要な課題として残る.本研究では,このグラフェン/SiC界面構造の改質のため,窒化による新奇周期構造を有する原子層界面構造形成,およびグラフェンの負の熱膨張係数を利用した急冷法によるグラフェンの擬似的自立化の手法の開発を行った.本論文では,特に高分解能電子顕微鏡断面観察による界面構造の直接観察を行うことにより,窒化原子層の界面構造を決定するプロセスを紹介し,グラフェン構造解析における高分解能TEM観察の威力と重要性について述べる.

キーワード:炭化珪素,熱分解,界面構造,自立グラフェン,ダングリングボンド