顕微鏡 第53巻▶第2号 2018
■解説

合金ナノ粒子における構造ゆらぎの時間分解超高圧電子顕微鏡観察

佐藤和久,保田英洋

大阪大学超高圧電子顕微鏡センター

要旨:高エネルギー電子照射下でのCo-Pt合金ナノ粒子におけるL10型規則格子形成過程を,電子直接検出型カメラを用いて高速その場観察した.573 Kにて1 MeV電子照射(ドースレート:8.9 × 1024 e/m2s)により,ナノ粒子内に規則格子が形成され,c軸の配向が2.5 ms間隔で時間変動していることが明らかとなった.動画を解析した結果,573 Kでの拡散係数は3 × 10–17 m2/sであると推測され,この値はバルク合金における外挿値よりも1013倍大きいことが判明した.規則化が観察された温度(573 K)は,速度論的規則化温度(800 K)よりも著しく低い.このような低温での規則格子形成は,高エネルギー電子照射により導入された過剰空孔(熱平衡時の106倍)を介した高速原子拡散に起因すると考えられる.電子直接検出型カメラを用いた時間分解観察は,規則化をはじめ固体反応の素過程を実空間で直接観察する手法として有用である.

キーワード:超高圧電子顕微鏡,電子直接検出型カメラ,時間分解観察,高速その場観察,照射促進規則化