顕微鏡 第53巻▶第3号 2018
■特集:三次元:ソフトからハードへ(TEMの場合)

3次元クライオ電子顕微鏡法が解き明かす細胞の運動

安永卓生,荒牧慎二,肥後智也

九州工業大学

要旨:クライオ電子顕微鏡法は,生理的条件に近い状態で分子構造を明らかにできる強力な手法の1つである.電子線トモグラフィー法と組み合わせることで,細胞や組織内での分子動態をナノレベルの分解能で明らかにすることができる.我々は,細胞運動や細胞センシングにとって重要な構造である糸状仮足のアーキテクチャを明らかにしてきた.力学的バランスから推定される本数のアクチン繊維束のセットが観測され,架橋構造とX線結晶解析法による原子モデルと統合し,束化因子ファシンのアクチンへの結合様式を示した.また,アクチン束周辺のファシンの協働的結合や短いアクチン等のブラウジングの結果として,アクチン細胞骨格の束化メカニズムを提唱した.さらに,糸状仮足先端でのアクチン繊維の振る舞いも明らかにしている.今後,クライオ電子線トモグラフィー法は,生物試料のみならず,燃料電池を始めとする水系の材料分野でも有効であろう.

キーワード:クライオ電子顕微鏡法,電子線トモグラフィー法,単粒子解析法,細胞運動,糸状仮足