顕微鏡 第43巻▶第2号 2008
■解説

位相差電子顕微鏡によるウイルス観察

山口正視a,岡田仁a,ダネフ・ラドスティンb,西山清人c,菅原敬信c,永山國昭b

a千葉大学真菌医学研究センター
b自然科学研究機構 岡崎統合バイオサイエンスセンター
c財団法人 化学及血清療法研究所

要旨:最近日本で開発された位相差電子顕微鏡を用いたウイルス観察について解説した.本稿では,ウイルス観察の例として,A型インフルエンザウイルスの懸濁液を急速凍結法により氷包埋し,低温位相差電子顕微鏡法で解析した結果を中心に述べた.インフルエンザウイルスは100~120ナノメートルの大きさで,コア,エンベロープ,及び表面のスパイクからなっており,球形と細長い粒子の2種類が存在する.また,ウイルスは多型を示し,エンベロープの構成から3つの種類に分けられることを新たに発見した.さらに,従来知られていた8本のリボ核タンパク質が,コア内で1+7の配置をとっていることを直接観察することができた.また,ウイルスは1粒子あたり,450本のスパイクをもつことを直接計測することができた.これらの結果は,位相差電子顕微鏡が,高いコントラストで高解像撮影が可能なために得られたものであり,これまで通常の電子顕微鏡では困難だったエンベロープウイルスのナノメートルレベルでの三次元構造解明に道を拓くものである.

キーワード:位相コントラスト,透過電子顕微鏡,A型インフルエンザウイルス,急速凍結,氷包埋

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