顕微鏡 第43巻▶第4号 2008
■講座

空間解析による中枢神経系の機能的構造の解明

神野尚三

a九州大学大学院医学研究院基礎医学部門神経形態学分野

要旨:Ramón y Cajalが,ニューロンの形態と機能に密接な関係があることを示唆して以来,脳の構造についての古典的な解剖学的研究が,現代の神経科学の礎を築いてきたことに異論の余地はないであろう.しかし,従来の解剖学的知見自体からは,脳の機能的構造を規定しているメカニズムについて知ることが困難であったことも事実である.このため我々は,空間解析による新たな解剖学的研究の確立に取り組んできた.空間解析とは,構造の背景にある規則を見いだすための数理的手法のことであり,生態学の分野では,樹木などの分布パターンの形成メカニズムを明らかにするために,幅広く用いられている.我々は,海馬のグリアについての空間解析を行い,ミクログリアにドメイン構造が存在することや,アストロサイトとミクログリアの間に誘引作用があることを発見した.本稿では,空間解析がもたらす神経解剖学の新たな可能性について考察する.

キーワード:空間解析,点過程,神経解剖学,ミクログリア,アストロサイト

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