顕微鏡 第44巻▶第4号 2009
■特集:STEMの生物応用

STEMを用いた厚切り生体組織の電子線トモグラフィー観察による空間分解能の向上

太田啓介a,東龍平b,中村桂一郎a

a久留米大学医学部解剖学講座顕微解剖・生体形成部門
b久留米大学医学部電子顕微鏡室

要旨:電子線トモグラフィー法(ET法)の理論的な空間分解能は切片の厚さに比例する.しかし実際には色収差やS/N比の低下などにより,特に試料の辺縁部では理論値通りの分解能が得られない事が多い.走査透過電子顕微鏡(STEM)はET法で問題となる画像取得時の色収差や高傾斜撮影時のフォーカスずれの問題が無いこと,また,高いコントラストが得られることから,理論的分解能に近い三次元再構築像が得られる可能性がある.今回われわれはSTEM暗視野モードでラット小腸上皮厚切り切片の連続傾斜像を取得し立体再構築を行った.その結果,再構築像辺縁部においても組織内スケールとしての被覆陥凹のクラスリン格子構造や,アクチン束の六方格子配列を確認することが出来た.今回観察した試料の厚さ(200~400nm)から予測される理論的分解能はおよそ10nmであり,ET法にSTEMを用いることで視野全体にわたり理論的分解能に近い再構築像を得られることが明かとなった.

キーワード:和文:電子線トモグラフィー,STEM,分解能,生物試料,樹脂包埋切片

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