顕微鏡 第46巻▶第3号 2011
■超高圧電子顕微鏡の新たな展開

蛍石型酸化物に形成される転位ループ性状と選択的はじき出し損傷の効果

安田和弘,安永和史,椎山謙一,松村晶

九州大学大学院工学研究院エネルギー量子工学部門
九州大学大学超高圧電子顕微鏡室

要旨:蛍石構造を有する酸化物セラミックは,放射線照射に対して優れた耐性を示すことから,次世代軽水炉燃料や核変換不活性母相の有力な候補材料となっている.本論文は,電子照射した蛍石型酸化物セラミックス中の転位ループの形成・成長過程を電子照射下「その場」観察により調べたものである.転位ループ性状は電子エネルギーに依存し,酸素イオン副格子にのみ弾性的なはじき出し損傷が誘起されるエネルギー範囲(<1.3MeV)では,積層不正を伴う転位ループが{111}面上に形成される.一方,陽陰イオン副格子のいずれにもはじき出しが誘起されるエネルギー範囲では,{110}面上に完全転位ループが形成される.透過電子顕微鏡観察および分子動力学計算に基づいて,低エネルギー電子照射により形成される転位ループは酸素イオン副格子の選択的はじき出し損傷に起因した{111}面上の酸素イオンのみにより構成される転位ループであると考察した.

キーワード:蛍石型酸化物セラミックス,照射損傷,選択的はじき出し損傷,転位ループ,電子照射下「その場」観察

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