顕微鏡 第48巻▶第1号 2013
■講座

コレラ菌のバイオフィルム形成と生きているが培養できない(VNC)状態への移行

水之江義充

東京慈恵会医科大学細菌学講座

要旨:細菌は飢餓や低温等のストレス下で生存するために種々の適応戦略を有している.代表的なものはグラム陽性菌では芽胞の形成である.一方,グラム陰性菌ではバイオフィルムの形成や生きているが培養できない(VNC:viable but noncalturable)状態への移行などが考えられる.コレラ菌は飢餓等のストレスが加わると,通常見られる平滑な(スムース)コロニーからしわのよった(ルゴース)コロニーに変化することを見出した.ルゴースコロニーはバイオフィルムを形成し,酸化ストレスや高浸透圧のストレスに抵抗を示した.また,コレラ菌を低温や低栄養の培地中で長期間培養すると,培養能が徐々に低下し寒天培地上でほとんどコロニーを形成しなくなった.つまりVNC状態へ移行した.VNC状態の菌をカタラーゼ等の抗酸化剤を含む培地に播種することにより蘇生(コロニー形成)に成功した.コロニー形態の相変異やVNCへの移行はコレラ菌のストレスに適応するための重要な戦略と考えられる.

キーワード:コレラ菌,バイオフィルム,相変異,ルゴースコロニー,生きているが培養できない状態(VNC)

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