顕微鏡 第53巻▶第1号 2018
■特集:生命を解き明かすクライオ電子顕微鏡法の新時代

低温電子顕微鏡を用いた回転分子モーターV型ATPaseの単粒子解析

岸川淳一

京都産業大学総合生命科学部生命システム学科

要旨:V-ATPaseは,親水性ドメインで起こるATP合成/分解と,膜内在性ドメインが担うプロトンの輸送を,回転によって共役させる回転分子モーターである.今回,低温電子顕微鏡(クライオEM)を用いた単粒子解析により,好熱菌由来V-ATPaseの回転状態の異なる3つの構造を明らかにした.溶媒マスクを用いたクラス分けや精密化,また,疎水性ドメインに着目したクラス分けを組み合わせることにより,これまでに報告されている回転分子モーターの構造より,高い分解能の構造を得ることができた.本稿では,V-ATPaseの構造解析から明らかになったサブユニット間の相互作用や回転状態による構造の違いを報告するとともに,単粒子解析を行う上でのサンプル調製や解析の実際を紹介したい.

キーワード:回転分子モーター,V-ATPase,単粒子解析,低温電子顕微鏡