顕微鏡 第53巻▶第1号 2018
■講座

新規誘電率顕微鏡による水溶液中の生物試料のナノスケール観察

小椋俊彦,岡田知子

国立研究開発法人産業技術総合研究所バイオメディカル研究部門

要旨:水溶液中の生物試料やナノ粒子を,無処理のままナノレベルの分解能で観察することは,生物機能の解析やナノ材料の分析にとって極めて重要となる.しかし,一般的な光学顕微鏡や電子顕微鏡では,分解能の制限や真空による変性,低コントラストなどの問題があり,溶液中の状態での高分解能観察は困難である.最近我々は,電子線照射に伴う電位変化を検出することで,溶液中の生物試料の高分解能かつ高コントラストでの撮像に成功した.新規に開発した誘電率顕微鏡では,大気圧状態を保持する大気圧ホルダーに生物試料を封入し,ここに電子線を照射することで生じる電位変化を下側の端子により検出している.電位変化の透過性は,水では高いが生物試料では低下するため,無染色での撮像が可能となる.さらに電子線ダメージも大幅に低減できる.我々は,この方法を用いてバクテリアや培養細胞,牛乳サンプル等の試料を観察し,非染色・非固定での液中観察を行うことに成功した.

キーワード:走査電子顕微鏡,誘電率,液中観察,培養細胞,大気圧ホルダー