公益社団法人日本顕微鏡学会会長 幾原 雄一
この度、第75回日本顕微鏡学会総会(名古屋市)において、第59代会長を拝命致しました幾原です。ここに就任あったてのご挨拶を述べさせて頂きます。
近年の顕微鏡学は大きな転換期にあります。収差補正技術の普及、バイオサイエンスへの応用,クライオTEMの躍進、プローブ顕微鏡の性能向上、その場観察技術の高度化、超高感度カメラ技術、解析ソフトウェアなどの高度化は目覚ましく、現在も発展の過程にあります。さらにこれらの技術が、材料、物質、生体の解析に応用されつつあり、顕微鏡の応用分野においても革新的な展開がなされています。顕微鏡学はまさに、今後の科学技術の発展のためのキーテクノロジーになっています。
本学会は、今年で70周年を迎えます。私は、この記念すべき年を新たな起点として、本学会が、我国の顕微鏡学の推進、普及に大きく貢献すべく以下の6つの課題に取り組みたいと考えています。
まずは、①“科学技術を先導する顕微鏡学の推進と普及”です。上述したように、顕微鏡分野は飛躍的に発展しておりますが、多くの研究機関ではまだ最先端顕微鏡法を導入するに至っていないのが現状です。学会としましても、最先端顕微鏡法をタイムリーに現場に普及させることで、各研究機関の研究開発に資するような展開を進めていきたいと考えています。加えて、これまでの顕微鏡学分野で蓄積されてきたコンベンショナルな観察・解析手法も新たな視点で見つめなおすことも必要です。中低倍の電子顕微鏡像のコントラスト解析や解釈、試料作製におけるノウハウ技術など極めて重要であるにも関わらず忘れられつつある手法の継続とこれらのさらなる発展を支援していきたいと考えています。この問題に対応すべく、講演会、講習会、分科会など学会としての行事をさらに充実させていき、バランスのとれた顕微鏡学の普及と発展を目指したいと思います。
また、②“若手研究者・技術者の育成”も学会の将来を左右する課題です。これは①の課題とも関係しますが、一重に顕微鏡学の奥深さ、すばらしさ、重要性をしっかりと若手研究者に示し、若手が自ら顕微鏡学に興味を持つようなしくみを学会として構築していく必要があります。
さらに、③“産官学の連携と交流”の強化です。そもそも本学会は、学術振興会第37小委員会を起点としており、産官学連携の中から誕生した学会といっても過言ではありません。そのような歴史的背景もあり、産官学の連携は積極的に推進していきたいと考えています。
それと関連して、④“顕微鏡関連大型プロジェクトの推進”を進めたいと考えています。本学会では将来構想委員会も活動しておりますが、さらにプロジェクト推進委員会を発足させ、学会としての議論を集約することで、大型プロジェクト立案に向けた各省庁への働きかけや提案を積極的に行って参ります。
また、⑤“国際化へ向けた取り組み”も重要です。私は第70回の学術講演会(幕張メッセ)で実行委員長を務めさせて頂きましたが、その際世界各国から顕微鏡学における第一人者や著名研究者を多数招聘し、国際セッションを導入しました。また、先回の名古屋の学会では学術振興会の日独セミナーが学会の一部に取り入れられ、約20名のドイツの研究者が参加し、非常に盛況な国際セッションとなりました。このように、多くの外国人研究者が当学会の学術講演会に参加し、講演、議論、展示会を体験することで、彼らに我国の顕微鏡学会の実情を認識してもらうとともに、学会の国際化の足掛かりになればと願っています。今後も学術講演会における国際セッションの推進、IMC, IFSM, EAMC,APEMなどとの強固な連携も進めてまいります。
最後になりますが、⑥財政の安定化は学会として大きな課題です。健全な学会運営を行うためにはしっかりした財政基盤が必要ですので、理事会を中心に多角的に議論しつつ財政を強化していきたいと考えています。
以上、上述の6つの課題に積極的に取り組みこれらを克服していくことで、本学会をさらに発展させ、我国の顕微鏡学の推進、普及に貢献できるように努めて参りたいと思いますので、会員各位の皆様には、さらなるご支援・ご指導をどうぞ宜しくお願い致します。