私のキャリアパス ~メーカーの技術開発職~

日本電子株式会社 EM事業ユニット EM技術開発部 森下茂幸

 私は大学院を修了後、現在勤めている日本電子株式会社へ入社し、透過型電子顕微鏡の研究開発に従事してきました。シンプルな経歴にはなりますが、会社へ入ったきっかけや現在の働き方などについて、書き留めさせていただきます。

 私が初めて電子顕微鏡の存在を知ったのは、学部3年のときに研究室紹介で田中研を訪れたときでした。何人かの学生と一緒に、テーブルをはさんで田中信夫先生からお話を伺いました。ちょうど収差補正TEMが研究室に入ったばかりということで、これを使えば原子がこんなによく見える、とアピールされていたのを覚えています。光の代わりに電子を使った顕微鏡で、レンズによる像のぼけを補正すると、原子が見える、とのことでしたが、当時の私にはわからないことばかりで、多くの疑問が浮かびました。
 ただ、何はともあれ、一度原子を自分で見てみたい、という気持ちをそこで抱いたのを覚えています。田中先生は電磁気学の授業も受け持っていらっしゃいましたが、他の先生とは違った講義で興味を持っていたこともあり、私は田中研を志望しました。

 田中研に配属された後は、主に電子回折顕微法という手法の研究に取り組みました。回折図形から像を再構成するという手法で、山崎順先生に手取り足取り教えていただき、博士課程を修了することができました。

 私が学生だった頃は、ちょうど収差補正TEMが実用化され、商用機として販売され始めた頃でした。学会へ参加すると、日本電子の沢田さんや奥西さんらが収差補正装置に関する発表をされていました。自分は顕微鏡の手法の研究をしていましたが、装置の改良が与えるインパクトの大きさを感じ、電子顕微鏡という装置自体の開発に携わってみたいと感じるようになりました。大学でそういう開発ができないかとも考えましたが、本当の意味で装置を知り開発をするのであれば顕微鏡メーカーに入るのが一番だろうと考え、日本電子に就職することにしました。

 日本電子に入社後、学生の頃から興味を持っていた収差補正装置の開発に携わることになったのは、偶然だったと思います。会社では多くの開発課題があり、人も限られているため、自分がやりたいことをできるとは限りません。ちょうどそのとき空いていたポジションが今の自分の場所だったのだと思います。

 会社によっては、基礎研究をするための研究部署や研究所がありますが、弊社の場合はそのような部署はありません。私は技術開発部署に所属することになりました。製品の仕様書を書いたり、新しく開発した装置の検証をしたりといったことが主な仕事になります。装置によっては納入作業のフォローまですることもあり、目の前でユーザーが喜んでくれたときは大変うれしく、大学での研究とは違ったやりがいを感じることができます。メーカー技術者の醍醐味ではないかと思います。
 一方で、私の部署では研究活動も推奨され認められてはいますが、必須ではなく、時間を作って取り組むやる気と根性が少し必要になります。ただ、その気になればメーカーでしかできない研究ができます。個人的には、企業に入ってからも論文を書く仕事は続けたいという思いがありました。私の場合は、開発要素の多い特殊製品を担当することが多かったことや、東京大学や産総研の先生方と共同研究する機会に恵まれていたこともあり、入社後も隙間時間を使って論文を書いてきました。
 幸いにして自分の部署は社員のやる気も大切にしてくれ、与えられた仕事以外のことに取り組んでも止められることはありません。自由闊達な気風の会社に感謝しながら、これからも開発業務と研究活動の両輪で仕事を楽しんでいけたらと考えています。

 最後になりますが、同じ会社・同じ部署に勤めていても異なる考え方をしている人はいますし、会社が異なれば文化が違います。企業で研究活動をする技術者の一例として、読んでくださった方の参考になれば幸いです。

社内にて。装置は開発初期の電子顕微鏡。