学会長のご挨拶

公益社団法人日本顕微鏡学会会長 岡部 繁男
令和5年7月吉日

 この度、第79回日本顕微鏡学会総会(松江市)において、本学会の会長を拝命させていただきました。就任にあたりましてご挨拶を申し上げます。

 これまで、日本顕微鏡学会は70年の歴史を持つ学会として顕微鏡学の発展と産業応用に多大な貢献をしてきました。近年は電子顕微鏡だけでなく光学顕微鏡を専門とする研究者も参加して、多様な学際研究を包含する学会となりつつあります。顕微鏡学の進歩は非常に急速で、国際競争力の強化には学会活動の活性化とインパクトの高い研究成果の発信が必要です。これまでの4年間、幾原会長のリーダーシップの元に日本顕微鏡学会では多様な活動が推進されてきました。その成果は学会員の皆様にも実感できるものとなっていることと思います。今後はこのようなアクティビティーを維持しつつ、特に以下の項目を重視し、会員の皆様の協力の元に更なる学会の発展を目指していきたいと考えます。

(1)顕微鏡学の研究基盤強化:
最新の実験機器の導入と人的リソースの確保は全ての科学研究において最優先の課題になります。残念ながら、今日の研究事業の策定においては、ボトムアップの声がしばしば等閑にされ、いわゆる「トップダウン」事業という形が優先されてしまう事があります。学会員のコヒーレントボイスとしての提言を行い、関係省庁・機関と生産的な議論を行う事が求められています。これまでの学会の取り組みを更に強化し研究基盤の整備を目指します。また顕微鏡関連企業と適切な連携を行うことも重要です。アカデミアと企業が研究交流と情報交換を密に行う場として、本学会はこれまでも重要な役割を果たして来ました。そのような伝統を守り、更に新しいアイディアを取り込んでいければと思います。

(2)国際的に高い競争力を持つ顕微鏡学の推進:
顕微鏡技術の進歩は目覚ましく、高分解能・高精度のデータ取得とAI技術の活用により高度化した解析が可能になっています。こうした状況において、国内研究者が緊密なネットワークを形成し、国外の研究者と活発な交流を行うことが求められます。新型コロナウィルスによる行動制限もほぼ解除され、国際的な研究交流を活性化するまたとないタイミングですので、会員の皆様のアイディアを元にして新しい取り組みも実現したいと考えています。国内・海外の学術連携を促進するために、学会事業を活用し、学術ネットワークの発展による研究力の向上を目指します。

(3)若手顕微鏡学者と未来の研究者の育成:
顕微鏡学会員の年齢構成を見ると、若手会員の増加が喫緊の課題であることがわかります。画像データが持つ異分野の研究者にも訴える力を利用して、顕微鏡を扱う研究者が多い学会をターゲットにした若手交流の促進を試みます。また大学院生やポスドクのキャリア形成の間口を広げるために、世代を超えた学会員の交流、特に企業に所属する研究者と大学院生・ポスドクの間の交流を活性化できればと思います。また新しく開始された小学生から高校生までの「未来の顕微鏡学者」を育てる事業を継続・発展させることも重要な課題であると考えています。

 このような学会が主導する活動を積極的に実施するには、しっかりとした財政的基盤を持つ必要があることは言うまでもありません。幸い、現在の学会の財政状態は上向きですので、この傾向を維持し、更に強化できればと思います。

 以上、今後の抱負について申し述べました。いずれの項目も会員の皆様のご協力なしには達成できない内容です。顕微鏡学と顕微鏡技術を活用した科学を発展させ、学会をさらに育てるために努力いたしますので、何卒皆様のご支援とご指導を賜りますよう、お願い申し上げます。