私はイメージング解析を基軸に組織におけるコラーゲン線維束形成と細胞間ネットワークをテーマに研究を行なっています1), 2)。本稿では私がどのような道を辿ってきたのかについて、同世代や若手の先生方向けに話を進めていきたいと思います。
そもそも私が基礎研究に興味を持ったのは、九州歯科大学歯学部5年次前期に研究室配属で、自見英治郎先生の教室(分子情報生化学分野)にお世話になったことがきっかけでした。約半年間、決まった曜日にだけ研究室にお邪魔していたので、実際には1ヶ月程度の期間だったかもしれません。元来、私は実習などで手を動かすことが好きでしたので、様々な実験に挑戦することはとても楽しかった思い出です。また教室の先生方がとても優しく、実験以外の時間も研究室で楽しく過ごすことができました。私はこの経験をきっかけに研究に興味を持ち、歯科医師として臨床だけでなく、研究という道があるということを知りました。
大学卒業後、研修医として久留米大学医学部歯科医療センターに所属しました。2年間の研修医期間(歯科の研修医期間は通常1年間。久留米大学では医科と同じプログラムで2年の研修医期間)に、外来と病棟勤務を約1年間ずつ経験し、ここで口腔外科の基本を学びました。現在でも、週に何度か診療をすることがあり、この頃に学んだことが歯科医師としての基礎となっています。
研修医修了後、もう一度研究がしてみたい思い、久留米大学大学院医学研究科に進むことを考えました。当初は骨再生に興味を持っていたため、各組織における間葉系の細胞について、研究をしておられる中村桂一郎先生の研究室の門を叩きました。中村先生は上原康生先生の門下生ということもあり、形態学的解析(電子顕微鏡を主軸とした顕微技法)を中心に研究を進めておられました。中村一門に弟子入りしたことをきっかけに、コラーゲン線維束形成に関することとなり、イメージング解析を行うようになりました。幸いにも久留米大学は中村先生のご尽力もあり、各種顕微鏡(SEM, TEM, FIB-SEM, Multi photonなどなど)が実稼働しておりましたので、朝から晩までサンプル作成および観察を好きなだけすることができました。
さて、ちょうどこの頃私生活では大学院入学前に結婚、大学院2年時に第1子誕生というイベントがありました。妻が仕事に復帰する際には、娘は保育園に預けることになりましたので、送迎は私の役目でした。なので、出勤時に保育園に娘を預け、17時にはダッシュでお迎え、妻の帰宅までに娘と夕食を済ませ、妻が帰宅したら、寝かしつけ等は任せ、私は研究室に戻るという生活でした。そのため、私の帰宅が24時を過ぎることも普通でした。妻も他大学で大学院→助教をしていた時期があるので、このあたりには理解があり、この生活が成り立っていたと思います。また17時で一旦切り上げて帰ることや子供が熱を出して早退する時も「子育ては親育ち」と、中村先生が支援してくださったため、この生活ができていました。私が子育てなり研究なりを好き放題やりたい放題やっていたのを、妻とボスが見守ってくれていたために、実現していました。この2人の存在だけでなく、太田啓介先生をはじめとする教室スタッフの皆さんの応援があったおかげ成り立っていたことはもちろんのことで、感謝しかありません。
その後無事に学位取得もできましたので、その先の進路を悩んでいました。研究を継続したい気持ちがあったからです。しかし、ポストの問題がありました。この点は、運良く中村先生の元でポスドクとして置いて頂けることになりましたので、研究を継続することができました。その間ポスドクではありましたが、医学科の組織実習に参加したり、外部講義を担当したりすることもありました。教員となった今では、半期に渡る組織学実習も学生さん達が楽しく実習に臨めるよう、取り組んでいます。ポスドクとしての契約期間が終わるタイミングで、兄弟子である金澤知之進先生がご実家の病院を継承するとのことで、ポジションが空いたため同教室で助教に就くことができました。研究面では中村先生、太田先生のサポートがあり、そのほかにも岡山大学 上岡寛先生や朝日大学 薗村貴弘先生のおかげで、シンポジストとして発表する機会を頂くなど、論文等継続して結果をまとめることができています。
さて現在はと言うと、研究面では前述のようにイメージング解析を継続することができていますし、私生活では第2子が2017年に誕生したので、変わらず17時ダッシュからの2人の子供の送迎等は私の役目です。本稿も23時1人になった研究室で、爆音で音楽を聴きながら書いています。実は中村先生は2021年3月で定年退職され、現在当教室は嶋雄一先生主催の元、動いています。嶋先生も私の研究の進め方で良いよと仰ってくださいましたので、現在も上記のスタイルで研究を継続できています。
長々とここまでの道のりを書いてきましたが、私のキャリアパスは「コツコツと継続」してきたことを周りの方々が支援してくれたことにより、造られてきたのだと思います。研究職というのは安定性では厳しい面もありますが、コツコツと継続して真面目に取り組んできたことや、積み上げてきたものを見て、評価してくれる人は確かにいます。私の場合はそのコツコツと積み上げてきたものから、次のキャリアへと繋がってきました(運だけできたのも否めませんが)。本稿執筆の機会が得られたのも、福田善之先生のおかげです。継続して残してきたものがなければ、私のようなものが福田先生に目に止まることもなかったと思います。この場をお借りして感謝申し上げます。
私のキャリアパスはあくまで1例ですので、参考になるかはわかりません。ですが、継続して何かをして、結果をまとめることでキャリアパスを作ることができた者もいると思って頂ければ幸いです。
最後になりますが、我々若手にとって結果をまとめるための論文投稿先として、
Microscopy (Oxf) イイですよ!
恩師 中村桂一郎先生 定年退職の日(左:平嶋、右:中村桂一郎先生)
1. Hirashima S, Kanazawa T, Ohta K, Nakamura K. Three-dimensional ultrastructural imaging and quantitative analysis of the periodontal ligament. Anatomical Science International 95:1-11, 2020.
2. Hirashima S, Ohta K, Togo, A, Nakamura K. 3D Mesoscopic Architecture of a Heterogeneous Cellular Network in the Cementum-Periodontal Ligament-Alveolar Bone Complex. Microscopy (Oxf), 71: 22-33, 2022.