私の研究キャリアは、東北大学工学部4年次に磁性材料の研究・開発を主に行う深道和明教授の研究室に配属されたところから始まりました。当初は研究のことも微塵もわかっておらず真っ白な状態の自分に、日々昼夜問わず研究室の先生方、先輩方から厳しいながらも大変暖かいご指導をいただきました。研究内容は、当時の藤田麻哉助教授(現産総研チーム長)の下で進められていた新規磁気冷凍材料の開発のうちの1つのテーマを与えていただきました。深道研で主に開発していた遍歴電子メタ磁性La(FeSi)13磁気冷凍材料は、磁場の印加・除荷により熱を吸ったり吐いたりする材料です。誰もまだ作っていない材料が作れる可能性に日々ワクワクし、あっという間に1年が過ぎてしまいました。
深道先生が翌年度をもってご退官されることもあり、大学院進学時は青葉山から別の研究室に移動する必要があったため、片平地区にある多元物質科学研究所の進藤大輔研究室の門をたたくことになりました。最初は、透過電子顕微鏡(TEM)に興味を持った仲のいい友人に研究室見学に誘われたのがきっかけで、軽い気持ちで進藤研究室へ見学に行きました。これが私にとって最初の電子顕微鏡との出会いとなります。進藤研では修士および博士課程でお世話になり、進藤先生と村上恭和先生(現九州大学教授)、赤瀬善太郎先生から大変親身にご指導いただきました。特に、村上先生からは非常にお忙しいにも関わらず、日々の研究にはじまり、TEMの使い方、論文作成、学振へ応募などにも大変親身にご指導いただき、掛け替えのない充実した時間を過ごすことができました。
博士課程卒業後、グローバルCOEのポスドクに採用され、その後ダメ元で物質・材料研究機構(NIMS)の研究職に応募したところ、非常に運良く国際ナノアーキテクトニクス研究拠点(MANA)の板東義雄先生、ゴルバーグドミトリ先生、三留正則博士のグループのMANA研究者として採用していただきました。本グループはナノチューブなどの材料開発に加え、TEM内に探針を導入することで1本のナノチューブの電気・力学などの物性評価やその場観察にも力を入れてました。入構当時、どのように人と違う新しいことができるのか、自分に一体何ができるのか、当初は方向性が全く定まらず非常に悩ましい日々を過ごしました。電磁場の観察、電気計測、力学計測に加え、当初から深道研時代の磁気冷凍にも関連し、熱に関しても個人的には興味がありましたので、進藤研の学生時代に取り組んでいたTEM内電気計測用のW探針等に代わり、2種類の材料でできた2本の金属探針の作製に取りかかり、TEM内で微小な熱電対を作製することで局所温度を測定する手法の開発にダメ元で取りかかりました。技術的な課題を一つ一つ潰していき、最終的にTEM内の温度変化が測れるようになり、現在は本温度計をSTEMによる電子線走査加熱と組み合わせることで、TEM試料内の加熱走査位置に応じた温度変化分布像が得られるようになっています。電子顕微鏡の研究としては温度や熱の計測は端の研究の部類だと思いますが、今ではそのような少し外れた職人的な研究が自分には合っているような気がしております。
最後に、私の電子顕微鏡との出会いのきっかけは、大学院での友人からの軽いお誘いから始まりましたが、蓋を開けてみると電子顕微鏡という装置を中心に多くの素晴らしい恩師、先輩、同僚、友人、後輩と出会うことができました。まだまだ勉強が足りてないですが、引き続き電子顕微鏡を中心とした人との出会いを大切にしながら、研究に取り組んでいけたらと考えております。