私のキャリアパス

東北大学 多元物質科学研究所 助教 森川大輔

 私の電子顕微鏡との出会いは、学部4年次に現在所属している東北大学多元物質科学研究所の寺内研究室に配属されたときです。正直、配属されるまでは特に電子顕微鏡に興味があるわけでもなく、めぐり合わせで寺内研究室に来ました。結晶構造解析には興味がありましたので、それが今のテーマにつながっています。
 幸いにもとても自由な雰囲気の研究室で、寺内先生や津田先生をはじめ、とても親切で優しい先輩方にも恵まれました。実験装置がとても潤沢で、好きなだけ実験を繰り返すことができたことは、代え難い財産となっています。今思えば不器用にただ繰り返していた部分がほとんどですが、繰り返しの実験の中で、自分で考える良い習慣が身についたと思います。とりあえず数回やってみる。できれば10回繰り返してみる。その繰り返しによって初めて見えてくるものの意義は今も大切にしています。
 最近は時間的な制約でどうしても効率重視になりつつありますが、無心に実験を繰り返した過去があるからこそであると感じます。

東北大多元研寺内研究室で6年間(学部・修士・博士)学んだ後に、理化学研究所の創発物性科学研究センターにて5年間ポスドクをさせていただきました。そこでは学生時代や今とは異なった研究テーマで、主に磁気スキルミオンに関する研究に従事しました。電子顕微鏡を使った研究ではあるものの私にとっては全くの異分野で、ものづくりやデバイス作成、さまざまな物性測定に理論計算等、多くの学生時代に味わえなかったことを身近に体験できました。
 その後1年間ドイツのアレクサンダーフォンフンボルト財団の奨学生として、ベルリンに滞在しました。そこでの異文化との交流もまたかけがえのない財産です。そして2018年から現職として古巣の寺内研究室に戻ってきた次第です。

私は学部4年次の研究室配属時点で博士過程への進学やアカデミックの分野で働くことを夢見ていました。当時から、好きなことをやって仕事になるなんて、なんて素敵な職業なのだと思っていましたが、それは今でも変わりません。ただ、これは分野によって趣は異なるかもしれません。ここでは他の分野のデメリットには触れず、電子顕微鏡分野のメリットのみを強調しておきたいと思います。
 もともと博士課程進学希望でしたが、それを躊躇せずに進めた理由は、電子顕微鏡の技術を持っていれば、アカデミックに限らずに民間企業へ就職するという選択肢があるという点が大きいです。また、電子顕微鏡メーカーのうちの大手2社が、日本メーカーの日本電子と日立です。日本が世界に誇れる技術を学び、そのフィールドで戦いたいという点も挙げられます。
 世界で自分にしかない技術を磨き、それを武器に世界と戦っていくことは、人生をかけるに値する素晴らしい職業であると思います。ぜひ共に日本が誇る電子顕微鏡の分野を盛り上げてくれる方々の台頭を心よりお待ちします。

ベルリン大聖堂の前にて 2017年5月