Q&A 誰か教えて!
質問1
透過電子顕微鏡でラットやマウスの網膜や色素上皮の観察を行ないたいのですが、目の固定方法や標本作成に関して通常の方法に比べて何か注意点などはあるのでしょうか?
固定は還流固定などを利用した方が良いのでしょうか?それとも取り出した眼球をそのまま2.5%グルタールアルデヒドに入れてしまっても問題ないものなのでしょうか?
還流固定でも浸漬固定でも、どちらでも問題はないと思います。ただ、細かい点では還流固定の方がよい結果が得られますが、マウスなど小動物では心臓から還流するので、網膜の方まで固定液が循環しないことがあります。
この場合は直ちに眼球を摘出し、固定液につけて下さい。また、眼球にとがったカミソリかメスで小さな切り込みをいれ(浸漬固定でも同じ)、固定液が眼球内にはいるようにする必要があります。
この時、大きく切ったり強く押すと、組織がまだ柔らかいので眼球を潰してしまうことがありますから、気をつけてください。
その後固定液中に入れて15分ほどすると眼球が固まりますので、赤道面に沿って眼球を切り開き、網膜が新しい固定液に浸るようにすると良いでしょう。
質問2
昨今、電子染色に用いる酢酸ウラニルの使用規制があると聞きますが、試薬及び染色に使用する水溶液の保管状態、廃棄法等に関して会員諸氏が通常どのようになさっているか教えてください。学会として管理に統一した方法があるのでしょうか?
生体組織のTEM観察の折にコントラストをあげるために酢酸ウラニルで染色をするようですが、残った酢酸ウラニルの処理についてユーザーから問い合わせがありました。
ウランは核燃料物質にあたりますので、その計量については厳しく規制されているはずで、生物系でご使用の方はどのようにしておられるか知りたく思います。私自身は生体試料についてはまったくの素人ですので、ご教示いただければ幸甚です。よろしくお願いします。
私は所属する大学で、酢酸ウラニルの管理責任者である、「国際規制物資計量管理責任者」をつとめています。
酢酸ウラニルは核燃料である「国際規制物資」の1つであり、法律によって厳しい管理が義務付けられています。
酢酸ウラニルは使用許可を受けた施設(MBAといいます)でなければ使用できません。電子顕微鏡を用いた生物学的研究を行っている研究施設なら、既にMBAに指定されていると思います。
酢酸ウラニルの購入、保管は個人ではできません。研究施設で決めた管理者が決められた保管場所に厳重保管し、各研究者は必要があるごとにその管理者立会いのもと、必要分のみ分与してもらって、希釈使用します。
廃液も流し等に捨てることはできません。施設で定めた方法で、原則として永久保存です。その研究施設での使用報告書を、半年ごとに文部科学省に提出することが義務づけられています。
顕微鏡学会に酢酸ウラニルの管理に関する指針等があるかどうかは知りませんが、現実的には会員がふだん研究を行っている研究施設の規定に従うことが最も重要だと思います。ご所属の研究施設の「国際規制物資計量管理責任者」にお尋ねになって下さい。
参考:
この質問について日本顕微鏡学会の理事会の見解を示します。上記回答で取り扱い上問題はありません。
2004年度の理事会でご報告してきましたが、文部科学省はこのウラン規制の法律を改定しようとしており(平成16年11月22日に案が出されました)、パブリックコメントを募集、5月にホームページ上でその結果を発表しています。しかし、まだ新しい規制体制が決まったわけではありませんので、従来の安全管理の方法で大丈夫です。
また、もし、新しい規制体制が決まったとしても、これまで「報告」で済んでいたところが「許可」を得なければならなくなるだけで、その細部はあまり厳しい取り締まりの対象とはならないと思われます。
なお、この規制の緩和を陳情した際に、日本学術会議、日本顕微鏡学会、日本解剖学会、日本病理学会の代表者で共同作成し、文部科学省に提出したマニュアルもご参照下さい。
質問3
最近蛋白分子の酢酸ウランを使った簡単なネガティブ染色法を行っておりますが、ろ紙でウランを吸い取る角度によってウランの残り具合が変わるというのですが、ウラン溶液濃度などの条件によってどの程度の染色液(ウラン)の厚みが変化するのか調べた論文または経験的な知見をお持ちの方がいらしたらお教えくださると助かります。よろしくお願いいたします。
ご質問の件ですが、ご指摘のように、ネガティブ染色は酢酸ウラン染色液が支持膜上にどの程度残っているかによって、試料の見え方がかなり変わってきます。
染色液を吸い取るために、グリッドをろ紙に当てますが、その加減はまったく感覚的、経験的であるといってもよいほどです。私は以前、ネガティブ染色でファージを観察したことがありますが、やはり同じ疑問をいだきました。しかし、何冊かの電顕試料作成法の解説書を調べても、具体的な記述はありませんでした。
結局、“適当”かつ“無造作”に酢酸ウランを吸い取って観察したら、まあまあの写真が撮れました。
というわけで、あまり深刻に考えずに気軽にやってみると結構うまくいくというのが、私の印象です。と言うと、ずいぶん無責任な回答になってしまいますので、一応定評ある解説書を紹介しておきますので、ご参照下さい。
「医学・生物学 電子顕微鏡観察法」 日本電子顕微鏡学会(現 日本顕微鏡学会)関東支部編 丸善 昭和57年1月20日発行、 透過電子顕微鏡 8 ネガティブ染色法
この解説書では、酢酸ウランの濃度を4%以上としています。私は4%で使用しました。
質問4
クライオの電顕を組み立てております。試料の凍結不乾燥を目指しているのですが、不乾燥の評価で困っております。
試料としては細胞を見たいと考えています。デモ試料として80%H2OのPVAを用いております。液体窒素を寒剤にした冷却機構を10-6Paのチャンバーに導入しております。乾燥(水分の昇華)の度合いをPVAの空孔で評価できるものでしょうか。
何かアドバイスがありましたらよろしくお願いします。
ヘリウム温度では、通常、昇華は気にしません。反対にアイスコンタミのほうを気にします。
平衡ですから条件によってどっちかなのですけど。昇華の度合いを測定したという話は聞いたことありませんし、市販のクライオ顕微鏡でもやってません。アイスコンタミの測定は納入のときします。
でも、10-6Paで窒素温度だと飛ぶ方向かもしれませんね。昇華の測定するなら穴なんていわずに氷の厚さ自体を測ったら如何でしょう。先方の装置の付属品がわからないのでなんともいえませんが、(EELSは無いかもしれませんが)最悪、何も無くても薄い氷を置いておいて、無くなるか厚くなるか位わかるでしょう。
質問5
非常に基本的な話で申し訳ありませんが、教えてください。
SEM用前処理のイオンスパッタで、金属イオン(AuやPt)とカーボンスパッタ等がありますが、これらの使用用途を教えてください。また参考になるような書籍・URLなどありましたら、教えていただけませんか?
1.一般的には、試料表面の立体構造を観察する場合に金属イオンを蒸着し、試料表面近くの重金属などを反射電子像として観察する場合にカーボンを蒸着します。 (本学会理事・富山大学医学部解剖学第一講座 大谷 修教授)
2.参考になる書籍を列記いたします。
「医学生物学の走査型電子顕微鏡 SEMで何が分かるか?」 宮澤七郎 安達公一監修、医学出版センター
「医学生物学のための走査型電子顕微鏡入門」 鈴木昭男 水谷隆著、丸善
「走査電子顕微鏡による表面解剖アトラス」 代表著者 徳永純一、医学書院
「電子顕微鏡 基礎技術と応用1999 電子顕微鏡で見るために」 第10回サマースクール実行委員会編、学際企画
「立体組織学」 学際企画
3.どのような試料を走査電顕で観察するかを教えていただければ、さらに具体的な回答が可能になると思います。
質問6
『走査型電子密度顕微鏡(法)』(Scanning Capacitance Microscopy, SCM)の測定原理を知りたく調べましたがなかなかデータがなく困っておりました。教えて頂けるのではないかと思いメールさせて頂きました。
『走査型電子密度顕微鏡(法)』(Scanning Capacitance Microscopy SCM)と書かれているのは,英文から察するとことろ,通常「走査型容量顕微鏡」と言われているもののことでしょうか。
「走査型容量顕微鏡」の原理的なことでいいのなら,たとえば, C. C. Williams et al.:Lateral dopant profiling with 200 nm resolution by scanning capacitance microscopy. Appl. Phys. Lett.,Vol.55,p.1662(1989).などをご覧になったらいかがでしょうか。かなり初期の論文だと思います。
もし,専門的なこと,技術的なことでご質問がありましたら,また,そちらの専門の方をお探しいたします。
質問7
顕微鏡について「疑問」があり、インターネットでホームページをめぐっているうちに顕微鏡学会のページにたどり着きました。
その疑問とは、「対物レンズは長いほど高倍率なのに、接眼レンズは長いほど低倍率なのはなぜか?」という疑問です。
他のホームページを見ても、生物・物理の先生にうかがってもダメでした。顕微鏡学会に寄せられる他の質問をみると、大変高度で次元が違うようにも思えますが、一つお答えしてもらえないでしょうか。
学会のホームページを見てくれて有り難う。各メーカーは正確なことを公開していませんので,なかなかインターネットで探すことは難しいようですね。
そこで,一般的な光学の知識で導いた理由をできるだけ分かり易くお答えしたいと思います。
まず,図1を見てください。
今までに習ったことがあるかもしれませんが,レンズの公式といって,左側の物体(黒い太矢印)とレンズまでの距離 aと,レンズから右側の像(黒い太矢印)までの距離 bとの間には,レンズ(この場合には凸レンズ)の焦点距離fによって決まる関係(レンズの公式)があります。
この時は,物体(左側の矢印)がレンズから見て焦点より遠くにありますから,実像ですね。もし,物体が焦点よりもレンズの近くにあると(赤い太矢印)左側に虚像(赤い太点線矢印)ができます。どちらの場合でも,物体が左側の焦点に近いほど,大きな像ができます。これは,図からでも,公式からでも分かるでしょ。
そこで,図2の顕微鏡の場合を考えます。顕微鏡の対物レンズや,接眼レンズは,中央の水色のレンズのように通常2枚以上を組み合わせてあります。
しかし,それらは結局1枚のレンズで置き換えることができるので,右側の赤いレンズのように描くことができます。まず,対物レンズを考えます。
この場合は,実像を作りますので,レンズの焦点距離 foができるだけ短いレンズで,試料を焦点の外側からできるだけ焦点に近づけて a を短くするほど,大きく拡大された像が,同じ位置に作られます。つまり,b/a が大きくなります。
鏡筒の下端,すなわち,対物レンズの上端から試料までの距離は決まっていますので, a を小さくするためには,対物レンズを組み込んだ筒全体を長くして,レンズの位置を下げる必要があります。
次に接眼レンズですが,この場合には虚像ができます。丁度虫眼鏡で拡大して対物レンズで一度拡大された像を見ているようなものです。従って,レンズから対物レンズによって作られた像までの距離 a は焦点距離 fe よりも短くなります。
この場合にもやはりできるだけ短い aを使うと,虚像の倍率 -b/a が大きくなります。目で見られる視野の角度は決まっていますから,高倍率のレンズほど、目に入ってくる部分が光軸近くのごく小さい部分であるということです。小さい像,すなわち、光軸のごく近傍の像を見る場合、収差補正は少なくて済むので、レンズの枚数も少なく、接眼レンズの長さが短くなります。(専門用語を使って言えば、視野数が違うからです。)
以上が,高倍率な対物レンズほど,筒が長くて,逆に接眼レンズでは,高倍率なほど筒が短い理由だと考えられます。もし,さらに分からないところがあれば,いつでも質問をお待ちしています。
顕微鏡は,17世紀にイギリスのフックが初めて細胞を観察した頃からどんどん発達し,今では電子顕微鏡を使うと1つ1つの原子までが見えるようになってきました。とても面白くて役に立つ装置です。
大いに興味を持っていただいて,将来の君の仕事に役立つようなことがあれば大変うれしく思います。
質問7-2
前回、光学顕微鏡について「対物レンズは長いほど高倍率なのに、接眼レンズは長いほど低倍率なのはなぜか?」という質問をした者です。前回の質問には早急かつ明快な回答をいただき本当にありがとうございました。
対物レンズや接眼レンズの筒の中身は全部レンズ、の様なことを考えていますと、やはり、長いほど当然高倍率になる、の様に思っていました。対物レンズでは実像を、接眼レンズでは虚像をそれぞれ映していること、そして対物レンズでは、レンズが試料に近いほど大きく拡大でき、接眼レンズは、対物レンズの実像に近いほど大きく拡大できることがその秘密だったのですね。
ところが、これがわかるとさらなる疑問が芽生えてきました。お答えくださった回答に「いつでも質問をお待ちしています。」とありましたので、それに甘えさせていただいて、もう一つ質問をよろしいでしょうか。それは「どうせ、対物レンズの倍率×接眼レンズの倍率=顕微鏡の倍率、となるのだから、レンズは2枚必要なく、対物、もしくは接眼の片方だけあればよいのではないか。」という疑問です。
回答にも「顕微鏡の対物レンズや,接眼レンズは,中央の水色のレンズのように通常2枚以上を組み合わせてあります。しかし,それらは結局1枚のレンズで置き換えることができるので,右側の赤いレンズのように描くことができます。」とありますので、どうせなら対物と接眼を一枚のレンズにもできそうな気がします。
そうすれば、前回のような疑問を抱く必要もない(?)と思いますし、ほかにも、どうせ2枚を重ねるのであれば、実像と実像、虚像と虚像という組み合わせにすれば、視野が反転しないため、観察もしやすいと思いました。
今回のご質問を整理すると,
1.顕微鏡のレンズは対物レンズか接眼レンズのどちらかでいいのではないか?
2.対物レンズ,接眼レンズはそれぞれ1枚のレンズ(計2枚)にできないか?
3.実像x実像,あるいは,虚像x虚像という組み合わせは考えられないか?
の3点だろうと思います。その回答は,
1.
どちらか1方にするというのは,虫眼鏡で見るということですね。従って,その拡大率はあまり高くできません。
もし,実像で見るのなら5mmの焦点距離のレンズで,100倍の象を獲るためには,レンズ以降像面までに500mm=50cm必要ですね。また,虚像で見るなら,レンズの前方(物体側)50cmにある像を肉眼で見るのと同じ事になってしまいます。試料の大きさが,0.01mm=10ミクロンなら,1mmのぞうを50cmの距離で見なくては行けません。どうも上手くいきそうにありませんね。
なら,もっと焦点距離の短いレンズを作ればいいではないかということですが,1枚のレンズで,焦点距離を極端に短くした時には,レンズの直径を大きくしないと像に歪み(収差といいます)がでてしまいます。
また,焦点距離を短くするためには,レンズの中央を厚くしなくてはならず,全体として大変大きなものになり,実用的ではありません。そこで,
2.
何枚かのレンズを組み合わせて,全体として歪みの少ないレンズを作ります。
前回,1枚のレンズで置き換えて考えてもいいと書いたのはあくまでも,収差を考慮しないでの話です。
余談ですが,カメラ用のレンズなどは,必ず数枚のレンズを組み合わせて作られています。これも収差をできるだけ少なくするためです。
3.
像が反転しないというのはなかなか魅力的なのですが,実際に光線図を書いてみられるとよく分かると思いますが,接眼,対物両レンズを実像だけ,あるいは虚像だけで用いると全体が大変大きくなってしまったり,十分な倍率が得られなくなります。一度図を書いて確かめてみてください。
なお、像が反転しない正立顕微鏡というタイプの顕微鏡がありますが、この顕微鏡ではプリズムを用いて反転した像を元に戻しています。
虚像x虚像の組み合わせは、複数のレンズを用いたルーペがこれに相当します。この場合視野が狭くなり、像の1箇所は見られても全体を同時に見ることが出来なくなります。
質問8
実体顕微鏡または高倍率のマイクロスコープ下での細胞観察時の細胞染色試料について教えて下さい。
ナガイモ等芋の断面の細胞について調べたいのですが、色が白いため、はっきり見ることができません。 細胞壁等を染色する試薬を教えていただけませんか。
パラフィン切片ではルテニウムレッド染色でヤマイモの細胞壁が染まります。PAS染色をすると粘質物がよく見えます。
エポキシ樹脂包埋切片でトルイジンブルー染色もよいと思います。メタクロマジーがみられると思います。「食品・調理・加工の組織学」(田村咲江監修、学窓社、1999年)の54ページにヤマイモのルテニウムレッド染色写真がありますので、参考にしてください。
細胞壁をはっきり見るだけなら、凍結して割ったものを走査電顕で見る方法が、切片を作製するより簡単です。できればクールステージ付のナチュラルSEMで見るのがよいと思います。
(徳島文理大学人間生活学部の田村咲江先生)
質問9
FIBのSIM像についての質問があります。
FIBのSIM像でGrainがよく観えることは一般的に知られています。弊社では、このGrain(FeNi系)に挟まれているAmo(NiP)膜≒40nm×20nmがSIM像で見づらい現象が起きています。試行錯誤していると、このNiP膜が鮮明に写し出される条件が見つかりました。FIB デポ銃(C)のシャッターをOPENして画面を1スキャンするとNiP膜が鮮明に確認できるのです。
デポ銃(C)のシャッターOPENによって微量に表面へCがデポされる。しかしSIMで視野をスキャンしているのですから微量にデポされたCは削られる。この相反した状態で何故NiP膜がSIM像で観えるようになるのでしょうか?因みに、Grain(FeNi系)NiP膜を挟んでいるGrainはデポされた状態(Grainが観えていない)のままです。この状態で視野をSSIMで2スキャン、3スキャン、4スキャン・・・進めるに従って当然Cは蓄積されてNiP膜は観え難くなって行きます。どのような現象が起きているのでしょうか、教えてください。
ご使用のFIB装置のデポとはカーボン蒸着のことでしょうか?
通常のFIB装置で試料表面に材料をデポする場合、試料表面にデポ銃からガスを吹きつけ、Gaイオンを走査(スキャン)し、ガスを分解・還元することにより、特定 領域に目的の材料を堆積させます。(お問い合わせの文面からしますと、デポ銃のシャッターを開け、ガス吹き付けられ ると、試料全体にカーボンを蒸着できるのでしょうか?)
試料へのガスの吹きつけ量と、Gaイオンビームの照射条件(ビームを走査する面積、ビーム電流量、照射滞在時間、加速電圧等)のバランスがとれた場合、デポすることができますが、ガスの吹きつけ量とイオンビームの照射条件が適当でない場合、デポができなかったり、場合によってはGaイオンビームにより試料表面がスパッタリングされることもあります。
以上のようなことを考慮致しますと、今回NiPの粒界が観察された理由は、吹きつけガスとGaイオンビームの照射のバランスにより、下記の3つの いずれかの効果が現れたと思われます。
1.NiP膜が優先的にスパッタリングされた。
2.NiP膜が優先的にカーボンが蒸着された。
3.初期のスキャンのみチャネリング現象が現れた
実際のサンプルを観察していませんので、これらから特定することができませんが、カーボンガスを吹き付ける前の状態、カーボンガスを吹き付けてから1スキャンした状態、複数スキャンした状態のSIM像をお送り頂けると、判定できるかもしれません。
((財)ファインセラミックスセンター(JFCC)ナノ構造研究所 加藤 丈晴先生)
質問10
下記写真を確認ください。
①SIM像 ②DepoScan 1回目のSIM像FIBで切断した面をSIM像で観ているのが、①の写真です。此れにDepoScan 1回目のSIM像が②になっています。①のSIM像の中心付近(NiP)の帯(白っぽく)が観えると思います。その周りの黒いコントラストはカーボンです。その中にチャンネリング現象が強く出ているのがFeNi(棒状)になります。この左の状態を、FIB内臓カーボンにてデポスキャンすると、②のSIM像が得られます。FeNiのチャンネリング現象は無くなり、NiPが強調されるのが判ると思います。
チャンネリング現象が無くなると言う事は、多少なりとも表面にカーボンがデポされたのでは?と推測します。であれば、何故NiPのコントラストはそのままに近い状態なのでしょうか?
また、SIMはGaイオン像であり、表面情報が優先されると解釈していますが、表面にカーボンが付いているのであれば、先に述べた、周りに付いているカーボンと同じコントラストになっても良いような気がするのですが?
送って頂いた写真を見ながら,前回答えて下さった方と少し話をしまして,次のようなことではないかと想像しました。
デポ前に見えているチャンネリング効果によるコントラストというのは,要するに,結晶方位による,2次電子の放出角度依存性,あるいは,1次イオンの入射角依存性によるコントラストでしょう。
従って,カーボンがデポされるとその散乱により,結晶方位によるコントラストは出にくくなります。つまり,デポ後もFeNiからの2次電子は出ているのですが,方位依存性が無くなって結晶粒のコントラストは消えているのでしょう。
確かに,SIM像は,表面に敏感だということですが,通常使用されているような加速電圧のイオンなら,薄いカーボン層を透過してもおかしくはありません。ただ,デポ前よりFeNi部が暗く見えているのは,表示時の全体のコントラストの付け方もありますが,やはりカーボンのせいで2次電子の放出量が減っているのでしょう。
次になぜ,デポ後,よりはっきりとNiPとFeNiのコントラスト差が見えているかということですが,2次電子の放出には,1次イオンの最大進入深さと,2次電子の最大放出深さとが関係してきます。正確なことはちゃんと計算をしてみないと分かりませんが,おそらく,元素の重さ(軽さ)からして, NiPの方が,FeNiよりもイオンの進入深さも2次電子の放出深さも大きいものと予想されます。つまり,カーボン膜透過後のイオンの進入深さが違っていて,NiPのほうが,カーボン被膜の影響を受けにくいのではないでしょうか。
以上が,写真を拝見しての我々の意見です。参考にして頂ければ幸いです。
質問11
低熱伝導ガラスのTEM試料作製方法、及び観察方法について教えてください。
現在、機械研磨後にイオンミリング(Gatan PIPS)で薄膜化(最終仕上げ3kV)を行いました。局所的に薄膜化されたのですが、FE-TEM 200kVで観察したところ、電子線で薄膜部が変形します。ダメージを与えないように集束レンズ絞りを広げて観察。変形は収まるのですが。ガラスのTEM観察は一般的にどのようなTEM(加速、LaB6、W)が適しているのでしょうか?
また、試料作製時のイオンミリングダメージも気に掛かります。ミクロトームが良いのでしょうか?それ以外にも試料作製方法はあるのでしょうか?
どれくらいの倍率で,どれくらいの分解能を求めて観察しておられるのか分からずに答えています。
確かに,熱電界放出電子銃でビームを集束して用いると試料温度は上昇しますので,試料は変形するかもしれません。ただ,同時に,電気伝導度も低いでしょうから,チャージアップしている可能性はありませんでしょうか。どちらの場合でもビームを拡げると収まります。
解決法としては,書かれているように,ビームを拡げて観察することが基本ではありますが,場合によっては,カーボン膜等導電性のものを薄く蒸着してやることも考えられます。また,低倍で見るのであれば,FE電顕でなく,LaB6等熱電子銃の顕微鏡が見やすい場合もあります。
加速電圧に関しては,おそらく高加速の方が透過する電子の割合が大きいので,温度上昇や,チャージアップに対して有効だと思います。やってみなければ分かりませんが,超高圧電子顕微鏡も有効かもしれません。
つぎに,私自身,ガラスを見たことがないのでよく分からないのですが,ガラス質の試料におけるダメージというのは,どのようなものでしょうか。結晶性試料の場合は,通常,ミリング時の非晶質化が問題になるのですが。あるいは,ミリングのためのイオンが混ざってしまうということでしょうか。PIPSで3kV位で仕上げていればそれほど問題にはならないように思うのですが。
質問12
こんにちは。はじめまして。顕微鏡については全くの初心者で、ぜひアドバイスをお願いします。
このたび、顕微鏡を購入することになりました。見るものは、主に、細菌や、寄生虫、毛髪、カビ、染色した組織、などです。どのような機種のものが見やすく、(初心者にも使いこなせる)適しているのでしょうか?
今までは大学などで、そこにある顕微鏡を使用していたので、特にその顕微鏡のメーカーや、価格、機種を考えたことがありませんでした。購入することになり、安い買い物でもなく、ずっと使って行きたいと思っていますので、一体どのようなメーカーのどのあたりのものを購入すればよいのか悩んでおります。
私個人のものではなく、会社として購入するものなので、下手なものは購入できませんし、簡単に買い換えるわけにも行かない為に、選ぶ手がかりを探していたときに顕微鏡学会にたどり着かせていただきました。
本当に初心者の馬鹿な質問で申し訳ありません。でも、悩んでおります。アドバイスよろしくお願い致します。
光学顕微鏡にもピンからキリまであって、目的・用途によってグレードは随分変わります。
「動物の診療所」と創設されるということから考えますと、その顕微鏡は理系大学の学生実習レベルよりは高く、医学生物学研究者のレベルほどは高くなくてよいと思います。
たとえば、手元に「オリンパス」という国産顕微鏡の大手メーカーのカタログがあるのですが、その中の製品で挙げると、以下の4つくらいでしょうか。
CH20実習顕微鏡(セット価格 約100,000円)
CX41生物顕微鏡(セット価格 約200,000円)
CX31生物顕微鏡(セット価格 約250,000円)
CX41生物顕微鏡(セット価格 約350,000円)
詳しくは、メーカーの顕微鏡お客様相談センター(0120-58-0414、FAX 03-6901-4251)にお尋ね下さい。
他の顕微鏡メーカーとしては、国産だとニコン、輸入物だとライカ、カールツァイスなどがあります。合わせて検討してみて下さい。
質問13
ぼくは中学一年生です。始めての中間テストに顕微鏡の名称を書く問題がありました。
しぼり板と書き、×されました。しぼりとだけ書かないと×だと言われました。ほかの参考書にはしぼり板と書かれているものもあります。正式名称を教えて下さい。
ご質問の件、おそらく小さな生物や細胞などを観察する普通の光学顕微鏡(生物顕微鏡といいます)についてだと思います。
この顕微鏡には,少し高級なものだと,試料上で光りの照射領域を変える絞りと,観察像のコントラストや分解能を変化させるための絞り,の2種類の絞りが着いています。
良い顕微鏡像を得るためには,観察対象や観察倍率に合わせて,その穴の大きさを適当に変え,これらの絞りを有効に使う必要があります。もちろん,大きさの穴が開いている「絞り板」を用いて穴の大きさを変えることも可能です。
その意味で,参考書が間違っているとはいえません。しかしながら,いろいろな穴の大きさを取りそろえるのは面倒ですし,絞り板を動かしてレンの中心と軸を合わせるのにも手間を要します。
通常は,絞りの大きさが連続的に変えられ,光軸のずれもほとんど無い【虹彩絞り】(羽状の絞り板を絞ったり開けたりすることで、光量の調整を行います。光の量の調節が簡単)が用いられることのほうが多いのです。
また【円筒絞り】( ステージの下部にばねつきの枠と遮光小筒を取り付け、それらで光量を調節 )を用いることもあります。これらは,板状とは言えません。そのような理由で,先生は「絞り」 とのみ書くのを正解とされたのでしょう。
小さな(ミクロな)世界を覗くことは,とても楽しいものです。是非,君も顕微鏡でいろいろな小さなものを見てみて下さい。そして,将来は,電子顕微鏡などの装置を使ってもっと小さな,ナノの世界も覗いてみて下さい。原子や分子の世界が宇宙の星を見ているように開けてきます。
質問14
LR-Whiteの事で大変困っております。貴学会のこのような素晴らしいコーナーの存在を知り、メールを送らせていただく次第です。
もしよろしければ以下の文をお読みいただき、お答えいただけませんでしょうか?どうか宜しくお願い致します。
LR-Whiteの重合は熱、紫外線、加速剤添加ですが、オスミウム酸で後固定したサンプルをLR-White中で浸透させると、早い時で試料を入れてから40分後には勝手に重合してしまいました。もちろん、熱、紫外線にも曝しておりませんし、加速剤も添加しておりません。
グルタールアルデヒドで前固定のみ行い、後固定しなかったサンプルでは、このような現象は起こりませんでしたので、オスミウム酸に原因があることが分かりました。
今まで使用していたオスミウム酸が古かったので、新しいオスミウム酸で試してみたのですがまた同じ現象が起こってしまいました。文献やインターネットで調べているのですが、このような記述は見つかりません。
日新EM株式会社さんと、応研商事さんにもお尋ねしたのですが、このような事例は報告されてないとのことでした。樹脂作製は次のようにして行いました。試料はゾウリムシです。
<前固定>
1. 8%の蔗糖を含む2%グルタールアルデヒド溶液/0.1 Mカコジル酸バッファー (pH 7.2) 4℃、30 min
2. 8%の蔗糖を含む0.1 Mカコジル酸バッファー (pH 7.2)で洗浄 4℃、30 min?overnight (この間に3回バッファーを交換)
<後固定>
1%オスミウム酸/0.1 Mカコジル酸バッファー (pH 7.2) 4℃、30 min
<脱水>
50% エタノール 室温、10 min
70% エタノール 室温、10 min
90% エタノール 室温、10 min
99% エタノール 室温、15 min
無水エタノール 室温、15 min×2回
(硫酸銅またはモレキュラーシーブズで作製した無水エタノール)
<樹脂浸透>
LR-White: 無水エタノール = 1 : 1 室温、1 h
LR-White: 無水エタノール = 2 : 1 室温、1 h
LR-White 室温、overnight (この間に勝手に重合)
長い文章をお読みいただきありがとうございました。失敗を繰り返し、前に進めずとても困っております。
もし、ご意見やご指摘等がございましたら、お教えいただけませんでしょうか?お忙しいところ、大変恐縮ではございますが、どうぞ宜しくお願い申し上げます。
このご質問には、免疫電顕法に詳しい日本医科大学大学院医学研究科生体制御形態科学分野の小澤一史教授に回答をお願いいたしました。
【小澤教授】
LR-Whiteでの重合では、通常のオスミウム酸が含まれるとうまくいきません。もし、どうしてもオスミウム酸を用いなければならないのであれば、還元オスミウム酸を用いて行うとうまくいくことがあります。
あるいはオスミウム酸の後固定を行わず、LR-White包埋し、超薄切片作成後、オスミウムの液に載せるか、あるいは密閉したシャーレの中でオスミウムの蒸発を利用して、コントラストをつけることは出来ます。二重固定よりは輪郭は落ちますが、一応の膜構造は分かります。
【広報委員】
つまり、質問者が経験した「紫外線も熱も加えていないのにLR-Whiteが重合してしまった」現象は、試料中のオスミウム酸が原因だということですか?
私はLowicryl樹脂にオスミウム酸固定した資料を包埋したことがありますが、樹脂が勝手に重合してしまうということはありませんでした。LR-Whiteに特異的な現象なんでしょうね。
【小澤教授】
原因はオスミウム酸にあると思います。従って、LR-Whiteでは「禁忌」なのです。